「キャリアウーマンって、質のいいタイツが欲しいけど、
なかなか買いにいけない。しかも月に3足は買う。」
「タイツって、宅急便で送っても壊れないし、
郵便受けに入るし、買う前に試したりもしない。」
フランスの名門INSEADに在籍していたElizabethはそのことに気づき、
クラスメイトでfinanceが専門のDickonとパートナーを組んだ。
「キャリアウーマン向け高級タイツの通信販売ビジネス」
である。
1995年のことである。
このビジネスのケースをentrepreneurshipの授業で取り扱った。
彼等としては、すぐに始めて先行者利益を稼ぎ、
3年でどこかのリテール会社にでも売却しようというという目論みである。
訳710人のISEADの卒業生にカタログを送ると、
30%も返信が来て、その中の約85%が購買意欲を示すという驚きの潜在市場である。
しかもタイツを買う際に重要なポイントとしては
質:70%
価格:49%
ブランド:60%
という結果が出ている。
1995年当時のヨーロッパでは未だ通信販売ビジネスが未だ盛んではなかったこと、
女性の社会進出も発展途上だったこと、
も追い風となるだろう。
僕個人としては、市場が小さい割に競合の参入が比較的簡単なので
長期的には苦しいビジネスになるだろうと踏んだり、
真似されない独自性がなかったり、
あまり自分の哲学にマッチしないので
それほど好意的ではないのだが、
先行者利益、3年で売却、ということを考えると、
お金儲けとしては正直素晴らしいビジネスモデルである。
さらに彼等が書き上げたビジネスプランも非常にしっかりしていて、
さすがと言わざるを得なかった。
授業でもほぼ全てのグループが
「このビジネスは成功する」
と結論づけた。
だが、このビジネスは実現しなかった。
理由は簡単。
「資金が集められなかったから」
「半年でVCから£80,000集める」
という計画に無理があった。
ここに気づいた人はクラスで数人。
みんなマーケットばかり気にしてた。
僕のグループのインド人がこの問題を主張してたけど、
僕を含め
「なんのことやら。ビジネスモデルしっかりしてるから大丈夫でしょ」
という感じだった。
そんな僕たちに突きつけられた事実。
実際、パートナーのDickonは途中でチームを抜け、
Elizabeth一人でこのビジネスをmanageしていくことになったが、
成功せず。
その後Elizabethはこの経験をきっかけに、いい職を見つけたという話である。
この結論を聞いた瞬間クラスが少し静まり返った。
「いいビジネスじゃないか。なんで?」
「たった初期投資が集められなかったくらいで。」
そんなことを考えているようにも見えた。
スタートアップの難しさ。
資金の大切さ。
そんなことをまざまざと見せつけられた。
最後にprofessorがこんな言葉を。
"CIMITYM"
Cash Is More Important Than Your Mother
どれほどcashに執着できるだろうか。