2011/01/18

魔法の国モロッコ(6) スナスナの街メルズーガ

魔法の国モロッコシリーズ



2011年1月1日
僕は朝6時に起き、受付の隣で寝袋を敷いて寝ていたホステルの従業員を叩き起こし、今までありがとう、今日からメルズーガへ行く、と告げた。
彼は見た感じ、働きぶりからしてもどうしようもない奴だ。
推定35歳、身長は低く、小太り、でっかいださい眼鏡をかけて、風呂にはいってないのだろうか、常に髪は湿ってる。
労働時間中にfacebookして遊んでるわ、メキシコにいるとかいう彼女とskypeするわ、本当に適当だ。
ただ、メキシコにいる彼女に関しては、あんまり言葉が通じないらしく、30秒に1回「コカコーラゼロ」と発言してた。
こいつ、おもしろいやん、と思う反面、こいつ騙されてんじゃねーのかと他人ながら心配になったりもした。
そんなダメダメな彼だけど、そのダメダメな所が愛くるしかったり、暖かみがあって、憎めない奴だ。
ちなみに僕が2011年最初に話した人間が、彼だ。
んーーー。と少し後悔の念がなかったではないが、なんか心があったかくなったので、これはこれでいいか、と納得した。


実はそんな彼との別れは少し寂しかった。
彼も少し寂しそうな素振りを見せたが、ただ眠そうにしていただけかもしれない。
そうして僕は人気のない大通りを歩き、タクシーを捕まえ、マラケシュ駅についた。
マラケシュからメルズーガへのバスはsupratour(スプラトゥール)といって、駅から2分程歩いたところにあるから、駅員に聞けば良い。
そしてメルズーガ行きのバスチケットを200デュラハム(2000円)で買った。
8時半マラケシュ発、21時メルズーガ着の、この一本しかない。
ちなみにメルズーガは砂漠の街で、スナスナの街というこのブログのタイトルはお察しの通り、one pieceのクロコダイル、スナスナの実から取った。



バスは12時間かかるのだが、12時間も・・・、という人は、マラケシュ発のツアーがあるので、それを使えばいい。1日目は朝7時発で1、2時間毎にどこかの街に泊まって1時間程観光、っていうのを繰り返し、どこかの街のホテルで一泊。次の日の夕方にメルズーガで一泊して観光して帰る、っていう3泊4日のプランだ。
ツアー会社の客引きがそこら中で、「砂漠ー」「らくだー」とか日本語で叫んでいるので、彼等に話しかければ、近くにあるツアー会社に連れて行ってくれる。
最初は1000デュラハムだとか言い出すが、他のツアー会社は650だったからそっちにするとか言えばどのツアー会社も650にまでは下がる。そこからはあなたの力量次第だが、僕はツアーに魅力を感じなかったので、ツアーは使わず自分1人でいくことにした。


なんでかって?
そっちの方が旅してるって感じがするから。
やっぱり一人旅なんだから全部一人でやりたい。
どこか気に入った街があればそこでバスを降りて適当に宿を探して一泊でもすればいい。
自分の思うように、自分の心に正直にやりたい。
だからこの旅では、自分が本当にしたいことって何?自分が今一番喜ぶことって何?っていうのを何度も自分に問いかけた。
何度も問いかけることで、だんだんと自分を束縛している常識や人の目が取り払われて行って、本当にしたいことっていうのが見えて来る。


旅行に行けば特にすることがないから観光地に行ってしまいがちだけど、やっぱりそうじゃなくて、現地の人と一緒に生活をして、現地の人が何を考え、どう生きているのかを知りたい。


こう思うようになった。
もう観光地にいくのはやめよう、それはヨーロッパでさんざん旅行、観光してきて、出て来た答えでもあった。
観光客が誰もいない街なんかに行って、現地の人と生活しよう。
そんな大それたことを言いながら僕は、観光地、メルズーガを目指す。
なんて矛盾した男なんだろうか。


でもメルズーガに行く理由はあって、
砂漠=太陽ガンガン、ぼく=太陽大好き、→僕は砂漠が大好き。
という見事な三段論法である。
かつ、砂漠の街ともなると、色んな街があるみたいで、その中でもマイナーな街に行きたいと思っていたのだ。


とかごちゃごちゃ言ってるけど、たぶんそんなのは僕の脳みそが作り出した理由の後づけで、結局、onepieceアラバスタ編のウイスキーピークとかアラバスタの街がかっこよかったからっていうのが一番大きいのだと思う。
とくにウイスキーピースの宴なんか好きだ。


だから、メルズーガを目指してマラケシュを発ったときには、one pieceに影響されて気分は旅人だった。
そうこうしてる内にバスは出発する。
毎年一緒に過ごす小学校からの友達や家族、親戚のみんなは今頃どうしてるんだろうか、そろそろこんなことしてるのかな、なんて想像しながらバスは出発する。
道は長い。ちょっと寝てみようかな、というか寝れるかな。
などと思いを巡らしていたが、それは杞憂でバスから見える景色には睡眠やDVDといったどんな暇つぶしの方法も敵わなかった。
ぼくはバスの窓に釘付けになり、空いた口が塞がらなかった。

太陽に照らされ、元気いっぱいに生きるサボテン。


ひたすら続く荒野。




急に現れた街。


こんなとこにでも人は生きている。
ほんとうに何もない所。
こういう所で、羊飼いや、農耕を営んでいる人をバスから見た。
そこでも人々はそれぞれの物語を生きていた。
ぼくも想像できないくらいはるか昔から延々と続いて来た歴史を紡いでいる。
毎日ひたすら同じことを繰り返し、新たな家庭を持ち、新たな子孫が誕生し、彼等がその物語を引き継いで行く。
僕はひどく混乱する。
一体、僕が普段考えている夢とか、幸せとか、キャリアとかって何なんだろうか。
もちろん幸せなんて比べることができないけど、仮に比べることができるとすれば、どっちの生活の方が幸せなんだろうか。
優劣なんてあるんだろうか。
やはりなんでも手に入る日本の方が優れているのだろうか。
自分の祖先が代々育んで来た土地や職を引き継ぎ、愛情を持って取り組む。
帰れば愛する家族がいる。
家族が病気になればはるか遠くの医者まで駆けつけ、子供が結婚すれば盛大に祝うのだろう。
それでいいじゃないか。


と同時に、やはり労働、家族愛ってのは普遍なのかな、とも思った。
そんなことを考えていると、とある街でバスは停車した。






おそらく日本で言うサービスエリアみたいなところで、ご飯が食べれたり、お菓子が買えたりする。
ここで軽くご飯を食べ、少しゆっくりした。
すると、アトラス山脈を抜けたのか、急に砂漠になる。







最初は景色に感動していたけど、何時間も同じ景色となるとさすがに飽きて来るな、と思ったら調度後ろの席に座っていたメルズーガ出身の男の子が話し掛けて来た。
しかもフランス語じゃなくて英語で。
僕と彼、イズマイルは1時間程話した。モロッコのことや日本のこと色んなことを話した。すると彼の住む村で、メルズーガの近くにある村に日本人女性が住んでいて、ホステルを経営していることを知る。名はのりこさん。モロッコ人の彼氏がいるらしい。
そのホステルにいくか、メルズーカに家族経営のホステルがあるからそこに行けとのこと。
バスを降りると高いホテルの客引きがいて、高いホテルに連れて行かれるからそいつらには絶対について行かないように。そう忠告された。
イズマイルは今はメルズーカの手前の街のおばさんの家に住んでいて、大学に通っているということで、彼は先にバスを降りた。


もうすっかり辺りは暗い。というよりも暗すぎてもはや何も見えない。
メルズーガの手前の街で停車したときに、外にいる黒人と目が合った。
すると彼はぼくに降りてこいという合図を送る。
仕方なく彼のもとに行くと、「のりこのホステルに行くんだろ?ここで降りろ。おれが車で連れて行ってやる。おれはのりこのホステルのドライバーだ。」という。


・・・怪しい

完全に怪しい。


ということでもちろん断った。
そんな怪しい出来事がまた起こる中、僕はとうとうメルズーガについた。
バスを降りた瞬間、一瞬スターにでもなったのかと思うぐらい色んな人がホテルの勧誘をしてくる。とりあえず1人の話を聞くことにした。
するととりあえずここに座れと近くにあった丸テーブルの椅子に座ると5人くらいに取り囲まれた。
強引に僕を説得しようとするので、ここは怒らずに、ゆっくりと冷静に、「もうちょっと落ち着いて?焦るのは分かる。でも僕にも僕の時間が必要なんだ。」と語りかけると、「悪かった」みたいなことを言って落ち着いた。
で、いつものように「60デュラハム」を主張すると、すぐに「あるよ」という。
「今から行こう」という。
いいんだろうか。
イズマイルの忠告を無視してこいつらを信じていいんだろうか?


いや、のりこさんのホステルに行くという手がある。
電話してみよう。
いや、待て、とりあえず行くだけいってみて、良かったらステイ、ダメならのりこさんのホステル、ってことにしよう、という決断に落ち着いた。


ということで、真っ暗闇の中を15分程歩くと、ホステルというか、囲いがあるおっきな家みたいな所に着いた。
んー怪しい。
しかも結構ぼろいから夜が寒そうだ。
病み上がりの僕にはつらいだろう。
これはのりこさんの所のいくのがベターだな。
彼には悪いが断ろう。


そう決断した瞬間、このホステルの従業員の女の子が出て来た。
かわいいじゃないか。
声から振る舞いまで全てかわいいじゃないか。
おい、客引きよ、このホステルは悪くない、このホステルに泊まろうじゃないか。
そんなことを口走っていた。
男とは何ともばかな生き物なんだろうか。
その子はマリカという。
マリカはお茶を出してくれた。この甘いお茶は僕の疲れた体には調度よく、幾分か僕の疲れを取ってくれた。
そしてリビングの様な所で客引きと3人で1時間程話し、布団に入った。


こうして僕の長い長い2011年1月1日は終わる。
悪くないスタートだ。
今年はどんな年になるんだろうか。